家庭用のエアコンの場合、6畳サイズや8畳サイズなど設置する部屋の大きさに合わせて製品を選べば済みますが、ビルや商業施設、公共施設などの大型施設に設置されるセントラル空調設備などの大型空調においては、その建物や空間ごとに吹出口や吸込口のサイズや取り付け位置を決めなくてはなりません。
空間の広さや高さといった物理的な構造だけでなく、どんな目的で使われる空間か、どのくらいの人がどのくらいの時間滞在するのか、動き回るのかなどによっても適切な空調の風量や到達距離、気流が異なるためです。
この設計をするうえで、制気口の開口面積を使った計算も必要になってきます。
本記事では開口面積とは何なのか、開口面積を用いる計算方法を解説していきます。
制気口の開口面積とは
大型施設のセントラル空調などにおける、吹出口や吸込口のサイズを求めるうえでは、以下のような点に留意しなくてはなりません。
吹出口のサイズを求めるには、1個あたりの風量を決定し、その風量下において風の音としての騒音がどれくらい発生するか確認を取ります。
そのうえで、吹出気流の拡散範囲と到達距離を確認しなくてはなりません。
なお、屋内の吹出口は気流を調整する必要があるので、制気口とするのが基本です。
一方で、吸込口のサイズを求めるには、1個あたりの風量を決定し、その風量下において風の音としての騒音がどれくらい発生するかを確認をする必要があります。
吹出口および吸込口1個あたりの風量の決定と騒音を確認する方法は、以下の方法で行います。
まず、空調を使いたい部屋ごとに必要送風量と、レイアウトや天井の割付などから吹出口および吸込口の配置と個数を決定しましょう。
これによって1個あたりの風量と推奨風速を求めて、吹出口および吸込口のサイズを決定します。
メーカーの製品カタログには通常、選定表が掲載されているので、求めた数値に対応した型番や寸法を決定することが可能です。
では、推奨風速はどのように設定すれば良いのでしょうか。
風速が大きくなるほど、吹出口および吸込口からヒューッといった金切音のような風による騒音が発生します。
そのため、騒音を抑えられるよう、使用用途や使用位置により風速の目安値が表示されています。
吹出口および吸込口といった給排気口の吹出風速は2.0~3.0m/s、ネック風速は3.5~4.5m/s程度になるように計画されるのが一般的です。
なお、給気口と空調を必要とするスペースが大きく離れている場合は、吹出口騒音と共に到達距離も重視しましょう。
人がいるスペースや作業スペースが制気口から離れているならば、騒音も聞こえにくく、逆に風量が不十分なために、冷暖房の効きが悪くなり、空調が意味をなさないためです。
そのため、給気口との距離が離れている場合、風速の目安値はスルーして、到達距離を重視して制気口の大きさを決定するのが一般的です。
この点、カタログなどには給排気口の種類により、吹出風速またはネック風速のいずれかが記載されています。
吹出風速とは、給排気口にある羽根などの影響により、ダクト内の風速が縮流されて吹き出される風速のことです。
吹出風速を求めたい場合に使用する有効開口面積は、吹出口の開口面積×開口率で求めることができます。
これに対して、ネック風速というのは、給排気口に接続されたダクトのネック部分での風速のことです。
ふく流吹出口などで、吹出風速が有効開口面に対して均一ではないために、吹出風速の算出が困難な場合に、吹出風速に代えて表示されます。
ネック風速を求めたい場合には、有効開口面積はネックでのダクトの断面積になるので頭に入れておきましょう。
制気口の開口面積の計算の目的
制気口の開口面積の計算の目的は、快適で無駄のない空調を行うためです。
セントラル空調の設備能力だけでなく、吹出口や吸込口のサイズや取り付け位置によって、風量や到達距離に違いが出て、人がいる場所や作業をするスペースに過不足なく冷暖房が行き渡るかが変わってきてしまうからです。
開口面積と関係のある風速は実際に空調を利用したい部屋ごとに、測定器を用いて測ることも大切です。
制気口の開口面積の計算に必要な情報
風量
まず、風の通り道に風速計を当てて風速を測り、通り道の開口面積から風量を求めます。
風速計は仕様にもよりますが、通常は毎秒○.○○mと表示されます。
そこに開口面積を掛けると風量が求められます。
開口が1辺1mの正方形だとした場合、開口面積は1m×1m=1㎡となります。
測定した風速が毎秒1mだったとすれば、開口面積1㎡×1m/s(メートル毎秒)×3600s/h(秒毎時)=3,600㎥/h(立方メートル毎時)と計算できます。
風速毎秒1mとはどのくらいの風なのでしょうか。
無風の状態で、人がゆっくりと歩いている時と同じくらいの風量です。
有効開口率
では、風の通り道が正方形ではなく、しかも、よくあるような格子が付いた開口の場合はどうなるのでしょうか。
開口面積から風量を求める計算そのものは簡単なのですが、実は開口面積を求めるにあたっては、少し工夫が必要となります。
というのは、開口の形やそれを遮る設備や装置の関係で、風が通る量に差が出てくるためです。
そこで、使われるのが有効開口率(%)というものです。
開口面積全体のうち、実際に風が通せる量といえばわかりやすいでしょう。
一般に制気口と呼ばれる吹出口であるVHSと吸込口のスリット型によって、それぞれ開口率が異なってきます。
10秒間測定
制気口のVHSやHS、角形で正方形もしくは長方形の場合、かつては5点計測を行っていました。
5点の位置を計測したうえ、その平均値に面積と有効開口率を掛けて求めていました。
現在では10秒間に10回測定できる計測器が登場したので、最新の計測器を満遍なく動かして10秒間測定する方法が一般化しています。
手間や費用はかかりますが、制気口の形に合わせた最新の測定器と測定筒を用意することで、風量測定のスピードも高まり、求められる数値もより正確になるメリットがあります。
そのほか、ビルや商業施設、工場などでよくあるタイプの測定方法も抑えておきましょう。
ブリーズライン
ブリーズラインは、窓際に設置されているケースが多いライン状の吹出口です。
風速計をラインの真下に直接当てて測定してください。
排煙口
排煙口の場合は、口を開けると排煙機がゴーゴー音を立てて起動しますので、30秒ほど開けたままにし、音が落ち着いてから測定をしましょう。
複数の排煙口がある場合には、効率よく測定していけるよう、最初の排煙口の風速を測定してから、次の排煙口を開け、測定が終わった排煙口を閉めるようにしてください。
複数のスタッフで計測を行っている場合、フロアが違っていても、計測完了の有無をお互い連絡し合わなくても問題ありません。
排煙口から聞こえてくる音を確認すれば、次の排煙口が開けられたか、測定が終わった排煙口がきちんと閉められたのかがわかるためです。
ダクト
ダクトの場合、あらかじめ測定口が設けられているケースがあります。
測定口があれば、そこで測定した値にダクト寸法を掛ければ風量が計算できます。
その他測定方法
その方法に無理がある場合は、防火ダンパーの点検口の蓋を開け、測定器のセンサーを挿入して測定する方法もあります。
それも難しいような場合は今後の管理上の問題もあるので、制気口のリニューアルなどのタイミングで、ダクトに測定口を設置するのがおすすめです。
コストを気にされる方もいますが、測定口の設置は高額な費用にはなりません。
小・中規模な施設の場合
ここまで、空調を利用する施設のスタッフが測定することを前提に説明をしてきましたが、測定は業者に依頼することももちろん可能です。
特に大規模施設の場合は、最初から業者に依頼するのがベストです。
小規模や中規模施設で調査コストを抑えたい場合やメーカーを選定するにあたって事前に確認をしたい場合には、どうすれば良いのでしょうか。
まず、微風速計は校正検定証が手に入る機種を用意する必要があります。
購入する必要はなく、専門の業者からレンタルするのが低コストで便利です。
機種によってボタン操作が面倒である場合や10秒間10回測定を実施して最大値、平均値、最小値を表示してくれる精度の高い機種などがあります。
測定の場所や順序、制気口の形状と設計風量などをあらかじめ計画して業者に相談し、最適な機種を選定してもらいましょう。
最低レンタル期間はたいてい5日ですので、現場の状況を見ながら最適期間内に測定が終わるように人員を配置することや作業効率を上げるようにするのがベストです。
大規模な施設の場合
これに対して、大規模施設でプロに依頼した場合はどのように行われるのでしょうか。
この場合はレンタルではなく、制気口の形状に応じて開口をカバーできる測定筒を制作するのが基本です。
測定筒を持つスタッフ、測定器で測定するスタッフ、記帳スタッフの3人1組で測定を実施します。
プロでしたら1日に400ヶ所は測定できるため、1,000ヶ所の制気口がある大規模施設でも3日もあれば完了します。
そのためには、立ち入り禁止区域がなく、設置工事が済み電源が全部使え、消防検査や社内検査などと重なって作業が中断されないことが必要です。
この点、個数が多いほど、既成の測定器を使えば良いと思われがちですが、測定箇所が数百個もあるなら、測定筒を作るほうが望ましいです。
制気口の開口面積の計算式
制気口の開口面積や有効開口面積の考え方、風速などの計測法がわかったところで、より具体的に計算式を確認していきましょう。
まず、風速を求めたい場合、有効開口面積と風量との関係式から計算します。
有効開口面積(㎡)=給排気口の開口面積(㎡)×開口率=風量[㎥/h]/(風速(m/s)×3600(h/s))となります。
この式を変換すると、風速(m/s)=風量㎥/h/(有効開口面積(㎡)×3600(s/h))で求めることが可能です。
開口率の目安値は給排気口面積に対する値を用います。
製品カタログなどに記載されている開口率は、給排気口面積から枠部分を差し引いた面積となっているのが一般的です。
そのため、小さなサイズの給排気口である場合、給排気口面積に対する枠部分の面積が大きくなり、開口率が不足するおそれがあるので注意してください。
たとえば、ユニバーサル形とも呼ばれるVHS型の場合で、1個あたりの風量を110㎥/hで、風速を2mとします。
必要な有効開口面積を求めると、有効開口面積(㎡)=風量[㎥/h]/(風速(m/s)×3600(s/h))=110/(2.0×3600)≒0.0153(㎡)と計算できます。
寸法が150mm×150mmで、開口率が80%だった場合の有効開口面積は、
給排気口の開口面積(㎡)×開口率=0.15m×0.15m×0.8=0.018(㎡)です。
開口面積0.018>有効開口面積0.0153となるので、充足していることになります。
一方、寸法150mm×150mm、カタログ値の開口率が82%の有効開口面積、枠部分の寸法が15mmの場合は以下となります。
給排気口の開口面積(㎡)×開口率=(0.15-0.015)m×(0.15-0.015)m×0.82≒0.015(㎡)の計算になりました。
この場合は、0.015<0.0153となってしまい、不足が生じるので注意しなくてはなりません。
改めてケーススタディをしておきましょう。
送風量600㎥/hの部屋で、ユニバーサル形(VHS)の制気口を3つ配置したい場合の、吹出口の大きさを求めてみましょう。
なお、対象となる部屋は騒音を気にすべき場所となるため、吹出風速は2.0m/s、制気口の有効開口率は80%と設定します。
計算式は以下のようになります。
制気口1個あたりの風量は、送風量/台数=600/3=200㎥/hとなります。
吹出口の開口面積(㎡)=風量㎥/h/(風速(m/s)×3600(s/h)×開口率)=200/(2.0×3600×0.8)≒0.035(㎡)となります。
このことから、
開口寸法は200mm×200mm≒0.04(>0.035)(㎡)
開口寸法は250mm×150mm≒0.0375(>0.035)(㎡)と計算することが可能です。
まとめ
ビルや工場、商業施設などにおけるセントラル空調においては、空調を行う空間ごとに吹出口や吸込口のサイズや取付位置を決めることが必要です。
どのように決めるかといえば、空間の広さや高さなどの規模だけでなく、どんな目的で使われる空間で、どのくらいの人がどのくらいの時間滞在するのか、動きが激しいのかなど用途に応じて、空調の風量や到達距離、気流を適切に調整しなくてはなりません。
吹出口をはじめ、制気口の適切な製品を選ぶために、制気口の開口面積を使った計算が必要です。
そのためには有効開口面積を求めたり、実際に風速を計測して風量を求めたりなどの作業が必要となります。
測定作業は業者に任せるケースもありますが、中には製品や業者の選定にあたって、まずは自分たちで計測して、計算を行い設計を立てたうえで、最適で低コストな製品を販売している業者をカタログなどから調べていくケースもあるため、基本的な知識を知っておくと役に立つでしょう。