お店や事務所などで空調設備の入れ替えや新設を行う場合には、空調機械は重要ですが同時に温かい空気や冷たい空気を室内に吹き出したり、吸い込んだりする制気口をどう設置するかという問題があります。
通常、家庭用のエアコンであれば問題になりませんが、お店や事務所の場合には空調機械からダクトを通じて送られてくる冷却あるいは温められた空気を吹き出したり、吸い込んだりするため、制気口の選定は非常に重要になってきます。
そこで、この空調工事における制気口の選定やその選定の際に必要になるサイズの計算方法などについて解説します。
ビルや病院、駅など住宅以外の建物では、制気口を使って空気を入れ替えます。制気口は吹出口で、風向きや風量調整などをします。…
空調工事における制気口とは
お店や事務所の内装や改装の際によく問題になるものに、空調用の制気口をどこにどのように設置するかが問題になります。
この制気口というのは、空調設備工事などにおける吹出口や吸込口、あるいは排気口のことをいいます。
これらの工事においては、それぞれの制気口をどこにいくつ設けて、どのようなサイズで設置するかについて検討しなければなりません。
制気口の役割の重要性
この制気口は、空調設備で調整された空気を室内に放出して室温を調整したり、室内のよどんだ空気を室外に出したりするなど、重要な役目を担っているものです。
すでにビルなどには排気管などのダクトが設けられているケースが多く、小さな事務所の改装などであれば、サイズ計算はそれほど難しくありません。
しかし、お店や広い事務所などの場合には、暖房効率、冷房効率を考えてその吹出口、吸込口のサイズや個数を考えなければなりません。
この計算をきちんと行って制気口を設計しなければ、工事したものの「暖房が効かなくなった」、「冷房が効かない」などの苦情が出ることになってしまうのです。
制気口のデザインを意識しなければならない場合もある
さらに、特にお店や来客の多い事務所などでは、雰囲気などを考慮してその制気口の位置をどこに設けたり、どのようなデザインがいいのかよく検討したりする必要があります。
また、室内にダクトなどが通っているのが見える場合には、それを隠して制気口をどの位置に設けるのがよいのかも工夫することが必要です。
最近ではダクトをあえて見せるデザイン例も多く見受けられます。
もう少し、制気口の位置やデザインなどについて考える必要のある点を見ていきましょう。
制気口の位置はどう考える?
制気口は、暖かいあるいは冷たい空気を吹き出すため、商品に直接その風が当たることを避ける必要があります。お店などでは商品の品質を損ねる可能性もあるからです。
同時に、室内にいる人に心地よい風、空気を感じてもらうための制気口の位置を考える必要もあるでしょう。
また、空調などの送風が行き渡り、室内全体の温度調節ができるように位置については慎重に考えることが必要です。
そのためには、事前にお店や事務所のレイアウトを決めておく必要があります。
コロナ対策として換気は十分なものを選定する必要がある
世界的なパンデミックになっている新型コロナウイルスに対する対策として、制気口の中でも換気口の重要性が高まっています。
三密を避けても、換気が悪い場合には、部屋全体にコロナウイルスが拡散してクラスターを引き起こす可能性があり、これまでも換気が十分でなかったためにクラスターが発生している例が多くあります。
当初多かったクラスターは換気が十分ではないホールなどのイベント会場でしたし、舞台興業などでも大規模なクラスターが発生しています。
お店などでクラスターが発生すれば、信用失墜によってお客様が逃げてしまうということもありえますので、必ず換気が十分行えるような制気口を設置するようにしてください。
制気口のデザインはどう考える?
制気口は位置だけでなく、その形態、見た目などによってお店や室内の雰囲気を左右する場合もあり、空調としての性能はもちろんですが、インテリアとしても重要でいろいろなデザインや色調が用意されています。
それらをどう選定するかも、特にお店などお客様が頻繁に出入りする場合には大変重要になります。
制気口の選び方(選定基準)
制気口の位置が決まれば、そこに設置する制気口そのものの選定が必要になります。
とくに重要なのは、部屋の大きさに応じた制気口の性能とサイズ、それにデザインです。
この制気口のサイズと性能は、その風量、風速などに影響し密接に関連しています。
当然部屋が大きくなれば、大風量の空調に対応したサイズおよび制気口数が必要になりますが、全体に空調効果を行き渡らせるためには、制気口の位置とともに、その個数、吹き出る風量、風速などを計算しておく必要があるのです。
それらを緻密な計算の上で決めることによって、お客様や社員の方に心地よい環境を提供することができる制気口を選定できます。
あとは制気口のデザインです。
選び方1.制気口のサイズはダクトの位置を確認して決める
まず、考えなければならないのは、室内の温度を保つために必要な制気口の大きさ、すなわちサイズを決める必要があります。
このサイズが適切でない場合、暖房や冷房の効果が出ず、冷暖房コストが大きくなってしまいます。
しかし、お店や事務所の広さや空調用ダクトの位置はすでに決まっています。
まずはこのダクトの位置を確認し、それから制気口の個数とサイズを決めるようにします。
選び方2.制気口の風量計算とそれに基づいたサイズの計算をする
基本的に制気口には吹出口と吸込口があり、空調工事を行う場合には、ダクトの設置場所や室内にどの程度の風量・風速が必要かを計算し、さらにそれぞれの騒音を確認する必要があります。
騒音が大き過ぎる場合には、騒音の小さい制気口にして個数を検討して増やすことも必要です。
とくに吹出口の場合には、吹き出した気流がどのように流れるのか、その範囲と実際の到達距離を計算に入れておく必要があり、確認が必要です。
温度調節は、この気流の流れによって変わってくるため、位置と制気口の数の選定に大きな影響を与えます。
また、制気口の前に柱や陳列棚などの障害物などがあると冷暖房効果がなくなるため、そこを避けた位置の設計にした上で風量計算をすることになります。
騒音はお店だけでなく、事務所仕様でも仕事の効率に関わる可能性があり、いかに抑えるかが問題になるのです。
風量の計算と確認
空調設備の性能は、制気口を設置する室内の大きさによって必要な送風量が決まってくるのであり、制気口の数は制気口のサイズによっても変わってきます。
送風量は制気口のサイズが大きいほど大きくなり、室内全体に行き渡りやすくなりますが、大きくなればなるほど騒音が大きくなる傾向があります。
そのため、騒音が大きい場合には制気口を分けて設置することになるのです。
一般には騒音との関係から制気口の推奨風速は、通常2.0~3.0m/sといわれており、ダクト内でも3.5~4.5m/sに抑えることが必要といわれています。(mはメートル、sは秒)
したがって、部屋全体にどの程度の風速が必要かわかれば、適正な騒音量内に抑えるために何個の制気口が必要になるのかが計算できるのです。
ただ、騒音は部屋の形状、天井の高さ、制気口の周りの構造などによって変わってくるため、実際には試してみる必要もあります。
実際の適正風量には部屋の用途によって差がある
ただ、この適正風量(吹出速度)は実際の使用する部屋の用途によって変わってきます。
2.0~3.0m/sはあくまでも平均的なミニマムの適性値なのです。
例えば、お店などで常にBGMなどが流れている場合には、騒音はある程度かき消されるため、大きめの制気口も可能になります。
そのため、風量は5.0~8.0m/sくらいまで許容されるケーズも稀にあります。
しかし、放送局やスタジオなどの場合には、騒音は実際の放送などに影響を与えるため、極力抑える必要があるのです。
これらの場合には1.5~2.5m/sが適正風量といわれています。
個人事務所などの場合には、2.5~4.0m/sになります。
それぞれの部屋の用途によって変わってくるため、事前に用途に応じた適正風量を先に調べておくべきでしょう。
制気口のサイズは製品の風速と吹出風量から計算できる
空調のカタログなどを見ますと、吹出風速とネック風速が記載されています。
ネック風速とは、制気口に接続しているダクト内での風速を表しています。
この風速によって実際の制気口から吹き出す風速が変わり、風量に大きな影響を与えるのです。
有効な風速は、下記の計算式にて計算できます。
『風速(m/s)=風量(m3/h)/(有効開口面積(m2)×3600(m/h))』
風速を求める際に用いる有効開口面積は『制気口の開口面積×開口率』で計算されます。
それぞれの値については、各製品のカタログに記載されているので、自身でも計算ができます。
制気口の開口率については、各製品や形体によって違っており、各カタログに基づいて計算して比較してみてください。
これで、制気口のサイズと個数をどのようにするか決まってきます。
あとは、制気口のデザインをどのようにするかです。
選び方3.制気口のデザインでお店・事務所の雰囲気が左右される
空調における制気口の風量、個数などが計算によって決まれば、今度はデザイン選定によって最終的に採用する制気口が決まってきます。
もちろん、空調の仕様によって各社の制気口の製品も変わってきますが、用途に応じてデザインは多く用意されています。
小さな事務所などの場合には、それほど設置位置に気を配る必要は少ないですが、来客が頻繁にある事務所の場合には室内の雰囲気を壊すことのないデザインのものを選定する必要があるでしょう。
小売店でもファッション性の高い商品を扱っている場合には、店内全体の雰囲気が大事になります。
お客様の目につくところに制気口がある場合には、制気口のデザインに気を配る必要があります。
その意味で、多少お金がかかるとしても、見た目がよいものを選定すべきです。
制気口の効果を確保するためにはレイアウトの工夫も必要
お店などの場合には、本来は制気口の前は空けて、気流が通りやすくなるように、レイアウトを考える必要があります。
気流を遮ってしまうと、せっかくの空調の暖かい空気や冷却された空気が店内に回らなくなり、冷暖房効果をなくしてしまうとともに、冷暖房のコスト効果も大きく削ぐことになってしまいます。
したがって、制気口の選定の結果として、制気口の個数と場所に配慮したレイアウトの工夫をする必要も出てきます。
まとめ
お店や事務所の空調設備の新設や買い替えの場合には、空調機械の選定だけでなく、制気口の選定も重要な要素になってきます。
これまで記載しましたように、制気口の選定には大きくはダクトに合わせた位置、サイズ、個数の計算とデザイン面での検討が必要になります。
お店や事務所の広さ、雰囲気でもかなり違ってきます。
自分でもある程度は計算やデザイン選定はできますが、これまで多くの空調設備を手掛けている専門業者のアドバイスは重要です。
価格以上の決め手になるかもしれません。