ダクト火災が原因で、出火元だけでなく店が入店しているビル全体や周辺の建物、商店街全体などに類焼するような大規模火災が発生する事例が増えています。
大きな被害を未然予防するためにも「ダクト火災」の発生原因と防止方法を知り、対策をとっていくことが大切です。
ダクト火災とは
ダクト火災は飲食店などにおける火気が原因となり、火気器具などから発生した炎がダクトへと入り込み、ダクト内燃焼を起こして大きな火災へと発展する可能性があります。
ダクト火災の5つの原因
専門家の調査によれば、ダクト火災は可燃物である汚れがダクト内に付着している状態でダクトに入り込んだ熱や炎が一定時間過熱されることによって引き起こされます。
そのため、ダクト内の汚れが一番の原因であり、次にダクトの離隔距離と吸込風速、火源の強さの各条件の組み合わせで着火リスクに差が生じます。
これらの要素が組み合わされた状態で、時間が経過してしまい、過熱されることで引火・発火し、ダクト内延焼が引き起こされる流れです。
ダクト内燃焼に至るまでの要素を5つの原因として、具体的に確認していきましょう。
原因1.ダクト内の汚れ
ダクト内に可燃物となる汚れが付着していると、着火しやすくなるため、定期的なメンテナンスは欠かせません。
原因2.ダクトとの距離の短さ
飲食店のロースターなどと吸込口までのダクトとの距離が短いほど、火災のリスクは高まります。
天井に伸びるダクトの直径が太いと、吸込口が広く傘状になったフードが設置されています。
これは、火気器具の焼き面とダクトの距離を遠ざけるための工夫です。
ですが、最近は直径の細いタイプでは吸込口を狭くして、火気器具の焼き面との距離が近づいているケースが増えてきました。
対面しながら食事を楽しむ客の目線を遮らないようにしたいという、レイアウト上の問題からです。
炎がダクト内に入ることが燃え広がる原因となるため、できる限り火が出る機器や器具との距離は離したいものです。
原因3.吸込口の風速
排気風量は天井に伸びるダクトの直径によって異なりますが、火や煙が出るロースターなどの機器と距離が長くなるほど煙や臭いの吸引効率が落ちてしまいます。
そのため、延焼防止の観点からはダクトとの距離を離す必要がある一方、今度はより多くの風量を確保しなくてはなりません。
もっとも、店舗の広さやレイアウトの問題から、十分に風量を確保できていないケースが多いです。
風速が十分でなく、風量も確保できない状態では、横風に煽られて、煙や臭いを吸引しきれなくなり、火災のリスクを高めます。
原因4.火源の強さ
焼肉店や焼き鳥店、居酒屋などでは、火気器具の火源はガスまたは炭火が選択されるのが一般的です。
顧客に人気の高い炭火焼ですが、炭は種類によって異なるものの、2~3kWのガスコンロに比べて、3~5kWと高火力で、火力調整の管理が難しいのがデメリットです。
焼肉や焼き鳥、干物など炭火焼を謳う飲食店は特に注意しなくてはなりません。
原因5.スタッフの防火意識
ダクト内に付着している油分などに引火して延焼する場合、ある程度の時間が必要となります。
室内で火災が発生して、それがダクト内に入る場合と炎などが入り込んでダクトの内部の油汚れなどに付着して火災を引き起こす場合では、時間の経過も異なります。
ダクト内の汚れに引火する火災のリスクは、早期に気づいて対策が採れれば、大きな火災を発生させるリスクを低下できるのです。
逆に言うと、飲食店やオフィスなどのスタッフの防火研修を行っていない、スタッフの防火意識や注意が欠如している、ダクト火災に関する知識がないことも、ダクト火災の原因の一因になるので注意しなくてはなりません。
発生しうる6点の被害
ダクト火災の発生により、どのような被害がもたらされるのでしょうか。
被害1.ダクト設備などの燃焼と崩壊
すぐに消し止められる、ボヤで済めば、火気器具やダクトなどの設備が焦げる場合や燃える程度で済みますが、修理や交換費用、テナント管理者への賃貸契約にもとづく賠償などが必要になることがあります。
被害2.店内火災
設備にとどまらず、店内が燃えてしまう被害の発生も大きなリスクです。
被害3.ビル火災
自店だけにとどまらず、ダクトを通じて引火することや店舗の壁や天井を通じて延焼し、ビルのほかの階や全体を焼いてしまう被害もあり得ます。
被害4.エリア火災
ひどいケースでは周辺の建物にどんどん類焼し、商店街一体や街区全体を燃え尽くすなど、大災害に至るケースも少なくありません。
被害5.営業停止や閉店による損失
火災により営業ができなくなれば、売上が減少します。
被害の状況や他店や周囲にも迷惑をかける場合や死者やけが人を出せば、閉店に追い込まれることも少なくありません。
被害6.客に対する損害賠償など
失火責任法上は、故意や重過失が認められない限りは損害賠償責任は生じません。
ですが、賃貸契約にもとづく責任や企業として現場に居合わせた利用客や従業員が火傷を負ったり、後遺障害が残ったり、死亡すれば賠償金や慰謝料などの支払いが必要になるリスクがあります。
ダクト火災の4つの対策
大きな被害を発生させないためにも、ダクト火災を防ぐ対策を講じておくことが大切です。
対策1.定期的なダクト清掃
ダクト内に油塵が溜まっていると、火災の発生や延焼につながりやすいので、排気フードやダクトはこまめに清掃して油脂などを取り除くようにしましょう。
無煙ロースターなど、近年ダクト火災が増えている焼肉店などの飲食店の床下に設置した排気ダクト内も定期的に清掃することが必要です。
対策2.清掃しやすい機器への交換
火災の発生原因を防ぐには、油などが付着するリスクを防ぐためにも、容易に清掃できる機器へ交換することもおすすめです。
ダクト内へ入り込んだ油分を回収するグリスフィルターは、パーツを分解できる構造で、食洗器で洗浄できるタイプがおすすめです。
吸込口は、ダクトへの連結部分の内部形状を工夫することで、ダクト内に付着した汚れを、火源から遠ざけられる構造のものも登場していますので、交換も検討してみましょう。
天井に伸びるダクトの中には、着脱が容易にできるタイプもあり、油煙で汚れたダクト内部を洗浄できるのがメリットです。
店舗の従業員でも簡単に取り外して洗浄ができるような、ダクトやレンジフードなどに交換していき、定期的な清掃を徹底させるのも、対策の一つです。
対策3.グリスフィルターと防火ダンパーの設置
ダクト内に油塵が固着しなければ、延焼リスクは抑えられますので、グリスフィルターの設置がおすすめです。
また、防火ダンパーが適切に作動すれば延焼を防げるので、防火ダンパーも設置しましょう。
対策4.従業員教育の徹底
定期的にダクトなどの汚れを洗浄して、油汚れによる引火や延焼の拡大を防ぐことが、従業員や顧客などを守ることにもつながります。
日頃から防火意識を高めて、清掃などを徹底させるとともに、万が一、火災が発生した場合の初期対応についても従業員にしっかりと研修を行っておきましょう。
まとめ
ダクト火災が発生すると、大きな被害が生まれます。
一番の原因はダクト内に溜まった油汚れであるため、定期的な清掃やダクトへと火気が入り込まないための対策を講じることが必要です。